スコ丸ブログ

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<小説> 上 忙しい中で出来ることの見つけ方

<小説>です。

今回は、「忙しい中で出来ることの見つけ方」です。

忙しすぎて、本来の業務が出来ていない時の業務の方法を小説にしています。

上・中・下 とある予定です。

  A氏は関東の住設機器設置販売店の営業マンをしている。職位はなし。出身大学は、四国の私立大学を卒業した。学生時代の専攻は経済学部であった。経済とは名ばかりで、出席すれば単位を取れるものだったので、経済に関してあまり得意ではない。

 

「おはようございまーす」

 A氏は、会社につくと名札を会社入り口の機械にかざした。ピッと無機質な電子音が出て、A氏の出勤が記録される。毎朝、会社の入り口付近に設置されている日程表には「AM 営業会議」と記入されていた。

 営業会議資料は上司が作ることになっている。A氏は、機器設置台数を上司に伝えてあるから、会議には筆記用具だけ持っていけば、いつも何事も無く終わる。

 

 今日もそうだろう。そう思っていた。

 

 会議の開始時間が近づき、A氏は会議室へと向かった。会議はロの字型にしてあって、一辺が4人座れるから16人座れる。いつも、一番奥にB所長が座り、自分の上司である営業グループのC課長とその部下5名(A氏含め)、メンテナンスグループのD課長とその部下4名だ。いつも12人で行われる会議だ。

 しかし、今日は見知らぬ男が座っている。パンツ・シャツスタイルに作業着ブルゾンを羽織り、スニーカーを履いている。いかにも、都心で見かけるビジカジスタイルだ。

 表情は柔和で優しそうだ。

 

 謎の男を含め、13人集まったのを確認し、B所長が口を開いた。

「それでは、会議を始めます。その前に、あまり見ない顔が有ると戸惑った方も居ると思いますが、今日は本社営業部からS主任が来られています。各営業所の会議を見て回っているとのことです。」

 B所長がそう言うと、謎の男 改め S主任が会釈をした。

「初めまして。Sです。現場経験は10年程度しか有りませんが、皆さんの状況を肌で感じて経営企画へつなげたいと思い、参加させていただきました。よろしくお願い致します。」

 B所長が拍手したので、皆の拍手でS氏を受け入れた。

 

 会議はいつもどおりだった。営業グループが受注件数と今年度の見込み件数の報告 及び着工中の現場進捗状況の報告。メンテナンスグループは、故障件数の報告 及び 経年による取替部品の欠品が増えてきたことによる取替推奨機器の報告を行った。S氏は各報告に関してメモを取ったり頷いたりしながら聞いていた。特に発言することはなかった。

 

 会議が終わり、A氏は休憩室で缶コーヒーを飲んでいた。すると、S氏も入ってきて声をかけられた。

「先程は会議、お疲れ様でした。」

「ああ、どうも」

 A氏は答えた。

「会議、疲れますよね。何も話さないから、段々眠くなってきちゃって。そもそも、数値の報告だけなら社内のイントラで回せば済む話なんだけどなぁ」

 S氏は笑顔で続けた。

「・・・そうですか」

 A氏は、とりあえず相槌をうった。

「それに、とにかく発言が少ない。あれでは、みんな考えてないのと同じですね。管理職の読み聞かせを聞いているだけです。そもそも、現場数は少ないのに現場管理は大忙し。営業グループじゃなくて管理グループにした方が良さそうです」

 S氏は笑って言った。A氏は流石にカチンと来た。

「東京から来たエリートにはわからないかも知れないけど、こっちは大変なんだ。土日だって電話で呼び出されることも有る。特に、住設機器の設置作業は大変で日程もよく狂うし、ずっと現場にいるわけにもいかないし・・・」

 いきなり、営業グループを悪く言われて強く言ってしまった。

「もちろん。現場が一番大変です。ですから、私は全体が良くなるように変えたいのです。すいません、Aさんの部署を悪く言ったようになってしまって。」

 S氏は笑顔でそう言うと、事務所へ戻っていった。

 S氏は大抵笑顔で対応してくれる。A氏はその対応に少し好感を持った。

 

 A氏が戻った頃、S氏はすでに事務所を出て東京本社への帰路についていた。

 A氏のデスクには事務員さんが貼ったメモがいくつかはられている。

 「〇〇現場の機器の位置がずれている」とか「打ち合わせ依頼」とか「見積り依頼」とか

 

 数時間席を外しただけでこれだ。

 こんな状態で、どう「営業」したら良いのか。

 毎日の仕事をこなすだけで精一杯。むしろ、この業務をミス無くこなしている自分自身を褒めてあげたいくらいだ。

 

 A氏としては、毎日の業務で手一杯だから毎年の目標設定には「見込み件数」をそのまま「目標件数」として上司には報告することにしている。これは、以前教育係として師事していた先輩から教えてもらった手法だ。このおかげで、A氏の販売店は毎年目標件数達成出来ているし、たまに工期の遅れで未達になることもあるが、次の年にはその分が増えるから目標大幅アップとなる。

 自分はしっかりやっているし、これ以上忙しくしたくないという気持ちも有る。でも、S氏の「営業していない」という言葉が気になった。